朝一番。
前日までにいただいたご注文の生豆を、釜を暖気運転させながら用意していきます。
40年以上続くわたしたちのコーヒーづくりの、最初の工程です。
コーヒーづくりにおいて「量」ではなく「質」を追い求める。
父は最初からそう決めていました。
不特定多数の方のためのコーヒーをつくらない。
ご注文いただいた生豆を、そのつど一品一品、小さな釜で焙煎していく。
小規模な釜を選んだのには理由があります。
この釜でなければ、焙煎しながら火加減や時間を調整できないからです。
生豆の状態に合わせながら焙煎を変えていかなければ、豆の持ち味は引き出せない。
父はそう考えたのです。
たしかに、大きな釜で焙煎すれば、大量のコーヒーが一気にできあがります。
手間も軽くなります。ですが、父はそのことを選びませんでした。
小さな釜ゆえ、1日それほど多くのコーヒーは焙煎できません。
ですから、わたしどもは1日にお受けする注文数に上限をもうけることにしました。
ご注文いただいてもすぐにコーヒーをお出しできないことがあるのは、そのためです。
父がはじめたこの面倒なコーヒーづくりの形を、わたしどもは『小さな焙煎』と名付けました。
今、工房にある焙煎釜には、父の手形が多く残っています。
わたしにとってこの釜は、父そのものです。
これからも、わたしどもはこの釜を守りながら、『小さな焙煎』によって、みなさまのコーヒーをつくりつづけてまいります。