ハゼ音が聞こえてきました。緊張で胃が痛くなる瞬間です。
豆は加熱することでふくらみます。そのふくらみに細胞膜が耐えきれず、バチバチという破裂音を発します。これがハゼ音です。
この音は、仕上げのタイミングをはかる基準となります。
最初のハゼ音が聞こえてきたら、「シナモンロースト」に到達したことになります。
豆の持つ酸味が、もっとも強く出る焙煎度合いです。
「ハゼ音」がおさまっていくと、「シティロースト」という焙煎度合いにむかっていきます。この間に、豆のもつ酸味は甘味へと変化していきます。
「シティロースト」は、コーヒー豆のもつ甘みを、もっとも引きたたせる焙煎度合いになります。
同時に、この「シティロースト」は、コーヒー焙煎の基本になります。
いくつかある焙煎度合いの中央値になるからです。
基本ということから、父親からいちばんきびしく教えられた思い出深い焙煎度合い。
いくら教え込まれても、なかなか思ったとおりに仕上がらなくて・・。
当時は、豆から「ハゼ音」が聞こえてきたら、緊張で胃を痛くしたものでした。
今、若いスタッフのひとりが、「シティロースト」を習得しようと悪戦苦闘しています。
何回やっても思い通りに仕上がらない。頭から煙を出しながら、メモに失敗の結果を必死で記録したりしています。
彼も、ハゼ音が聞こえてきたら胃の痛い思いをしているのかもしれません。
その姿にどうしても昔の自分を重ねて見てしまう。
ただ、いくら感情があるにしても、年上の余計なお世話の言葉は不要だということは、自分の経験でわかっています。
だから、彼を見ながら、心のなかでこの当たり前の言葉だけをつぶやいています。
「がんばれ、がんばれ」。