焙煎が話題になることが多くなりました。
しかし、釜のメンテナンスが話題にされることは、あまりありません。
それは、外部に委託されることも多いからだと思います。
そうしたなか、創業者・土居博司は、つねづねこう言っていました。
「職人であれば、自分の使う道具は、自分自身で手入れができて当たり前」。
ですから父は、焙煎の技術と同じくらい、釜の手入れをたいせつに考えていました。
釜の手入れのなかに、部品の交換があります。
どれだけ釜をたいせつにあつかっていても、消耗部品は交換しなければなりません。
そのなかで、もっとも難しいのが「ベアリング」の交換です。
焙煎釜には、背骨とも言えるシャフトがとおっています。このシャフトが中心をたもちながら、
なめらかに回転することを助けるための部品が、「ベアリング」です。
小さな部品ですが、とても重要な部品です。
この「ベアリング」の交換は、なかなかやっかいです。とりはずすのも、はめるのにも力がいりますが、力まかせにすればいいというわけではありません。言葉では表現できない「手の感覚」が、とてもたいせつになってきます。
「ベアリング」の交換ができるようになるには、繰り返しの修練がかかせません。ですから、自分ひとりでできるようになるのには、時間も手間もかかります。ただ、長年そうしたことをやっていると、自然に釜に対する「愛着」がわいてきます。
父から受け継いだこの古い焙煎釜は、気がつけば既に20年以上つかいつづけていることになります。父も、この焙煎釜にはそうとうの愛着をもっていましたし、それは私も同じです。
いまは、最新の焙煎機は温度と時間をコンピューターに入力すれば、自動的に仕上げてくれるものもあります。そうした機械には、手入れという概念はありません。ですから、壊れたら、新しいものに買い換えるだけです。ある面、とても便利です。ですが、そこからできあがる味は、だれがやっても同じになってしまうのではないかと思うのです。それは、私がつくりたいコーヒーではありません。
同じ生豆を使ったとしても、釜がちがえば仕上がる味は変わります。
土居珈琲のこの味は、父から受け継いだ「技術」と、つかう人間の「愛着」がこもったこの焙煎釜をつかって、はじめてつくりだせるものです。