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「腕前の向上」には、やっぱり時間がかかります。





20代のころ、焙煎が思ったとおりにできず、悩んでいたことがありました。
釜の前に立ちながら、「どうして、できないんだ」と、いつも焦っていました。

わたしにとって焙煎の最初の壁。それは豆の色の変化がつかめないことでした。
コーヒーは、生豆のときは乳白色。それが、じょじょにきつね色にそまり、濃い茶色へと変化していき、最後は、炭にちかい黒へとすすんでいきます。
グラデーションですすむ微妙な色の変化が、見極められないのです。

当初は、「自分ならカンタンにできる」と思っていましたが、いざやってみると、それが甘い考えであることを思い知らされました。

そうしたことは、どの仕事にもあると思います。

いま、当社には新人スタッフがいます。
はじめは「自分ならできる」と思っていた仕事も、現実を前にして、いざやってみると「ぜんぜんできない」と感じることが多いようです。

そんな状態の新人スタッフには、毎日、植木の水やりをやらせています。植物は、じっと見ていてもまったく動きませんが、時間が経過してあらためて見てみると、驚くほど成長していたり、花が咲いたりしていることがわかるからです。

悩んでいる新人スタッフを見ていて、迷うのは、アドバイスするべきかどうか。
しかし、それは新人スタッフから、自分で考え工夫する機会をうばうことでもあります。

水やりをさせている植物は、同じ時期に植えたものです。順調に伸びているものもありますが、残念ながら枯れつつあるものもあります。植木屋さんに理由を聞いたところ、植物は、水はあたえすぎても、あたえなさすぎてもだめだとのこと。

面接をしているとき、一番答えに困る質問がこちらです。
「焙煎はどれくらいでできるようになりますか」

一年やればできます、なんて無責任なことは言えません。もしかしたら、いつまでたっても焙煎釜をさわらせないという選択をすることもあります。

当たり前のことですが、仕事の腕前をあげるには時間がかかります。
そうかんたんにうまくはならない。焦ったところでなにもいいことにはつながらない。
そんなことは言われなくてもわかってはいるけれど、現場ではたらいている人間も教えている自分も、やっぱり焦ってしまうのが本音のところ。

植木に水をやっている新人スタッフ。
それを見ているわたし。
双方が、植木からがまんのたいせつさを学んでいます。