わたしたちは、コーヒー豆をつくるとき、すべて「ハンドピック」をしています。
「ハンドピック」とは、コーヒーにふくまれる不良豆を人間の目で見つけ、手で取りのぞく作業のことを言います。これは、機械にはできない作業です。
コーヒー豆は、自然の農作物。ですから、どれだけ品質の高いものであっても、不良豆はかならず混入しています。この不良豆が、コーヒーの味を大きく落とす原因になります。
たとえば、貝がら豆というものがあります。豆の中身がえぐれており、字のごとく、貝がらのような形をしています。
取りのぞいた貝がら豆。中身がくりぬかれたような形をしており、コーヒーの味わいを落とす原因になります
この豆は、正常なものと比べ、豆の肉厚がうすいです。その部分に火があたりすぎると、コーヒーから焦げたにおいがする原因になります。こうした不良豆から生じるマイナスの味わいは、焙煎の技術でおぎなうことはできません。
ですから、「ハンドピック」は、わたしたちにとって、焙煎と同じくらいたいせつな仕事です。
しかし、人間の目で確認して取りのぞく作業のため、完璧には取り切れません。
それでも、より良い状態に近づけるためには、時間をかけて、ていねいにこの「ハンドピック」を行うしか、ほかに方法がありません。
ですから、わたしたちの工房では、一日につくるコーヒーの量には制限を設けています。
大量につくることを目的にすると、この「ハンドピック」の作業が、おろそかになるからです。
また、この「ハンドピック」は、新人のスタッフがはじめて壁に当たる仕事でもあります。最初は、どれが不良豆かがわからないからです。くわえて、地味で、根気も必要とする作業なので、やっているほうは、とてもたいへんです。新人は、たいてい1時間もやっているとアゴが上がってきます。
しかし、時間をかけて、くりかえし行っているうちに、どういうものが不良豆かがわかってきます。ただ、そうなるには、一年ほどの期間を必要とします。
苦労と根気。くわえて人間の技術習得も必要なうえ、作業自体にも時間がかかる。そのうえ、不良豆とはいえ、現地から買い付けた生豆を捨てることになります。
考えてみれば、これほど非効率なことはありません。
ただ、この「ハンドピック」は、先代の頃からうけつがれ、40年以上続いているものです。
もちろん、わたしたちがこの作業をはぶくことは、これからもありません。