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「この味は、評価されるのか」。これをはじめて口にしたとき、正直そう思いました。

「この味は、評価されるのか」。
これをはじめて口にしたとき、正直そう思いました。

しかし、わたしはこの銘柄を買い付けることを決めました。

他の銘柄にはない、ブルーベリーやワインのような香りを感じたからです。

「エチオピア イルガチェフェ」

香りがあまりに特徴的ゆえ、専門家のなかでも、“コーヒーの新たな可能性”として高く評価するものと、“精製手法の稚拙さから生じた香り”と低く評価するものに、意見が大きく分かれた銘柄です。

父、土居博司も「この味は、評価されるのか」という、わたしの考えに同感していました。

「これを買い付けるのは、さすがにムリだろう」。
当時、彼とこのように話したことを覚えています。

たしかに、意見が分かれる銘柄ですが、月日が経つにつれて、「どうしても、この銘柄を買い付けたい」という、わたしの気持ちが抑えられなくなっていきました。

近年、コーヒー農園の多くが、効率化を求め、機械を導入しています。
それが、コーヒー市場における大きな流れです。

しかし、この銘柄は、そうした流れに逆らい、人の手作業によって、この香りを作り出していたのです。

ていねいな手仕事と、産地の恵まれた風土がそろうことで、この銘柄特有の香りは生まれたのでしょう。

わたしは、このような過程で作られた銘柄だからこそ、お客さまに紹介したいと考えたのです。

ただ、この銘柄を買い付けるうえで、心配したことがふたつありました。
ひとつは、お送りするお客さまに、この香りを理解していただけない可能性があったこと。
そして、人の手で作られた銘柄ゆえ、品質にムラがあり、欠点豆の混入率が高かったことです。

そこで、わたしは考えました。欠点豆が多いなら、自分たちが時間をかけて取りのぞけばいい。そう覚悟を決めて、この銘柄を買い付けることにしました。

年月が過ぎ、この銘柄は意外にも、世界中の人たちから一定の評価をうけ、コーヒー市場に広く知れわたるものとなりました。

「エチオピア イルガチェフェ」との出会いから15年。
その年月は、この銘柄を飛躍的に成長させたようです。

なぜなら、昔のものと比べると、欠点豆の混入率がとても低くなっているからです。

そして、その香りは、より洗練されたものになっています。

いまや、この銘柄は、エチオピアを代表する銘柄になったと言っても過言ではありません。

ただ、個人的には、そのことについて、すこし残念に思う部分もあります。あのとき、買い付けることを決断したあのコーヒーの香りのなかに「ただ単純に、いいものを作りたい」という青年の情熱のようなものを感じていたからです。いまの「イルガチェフェ」に、それを感じることはありません。

それは、わたしが求めすぎなのかもしれません。

エチオピア イルガチェフェ
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