わたしたちの工房では、小さな焙煎釜が横一列に6台並んでいます。この釜の配置は、かなり変わったものです。
20年以上前に、わたしたちが、いまの工房に移った際に、先代の土居博司が図面をひいて、このデザインとなりました。
それは、かなり特殊な形をしていたため、組み上げる直前まで、焙煎機メーカーの方に、「ほんまに、これでいいんですか?」と何度も念をおされました。
父が、釜の配置をこのようにしたのは、コーヒーを“つくる”ことだけに、特化しようと考えたからです。
喫茶店事業も業務卸もおこなっていないわたしたちは、ご注文のつど、生豆から焙煎することにしました。
そうやってコーヒーをつくるためには、ご注文内容によって、使う釜を変える必要がありました。
もちろん火加減や焙煎時間も、豆によって変えなければなりません。
そうしたことから、小さな釜を横一列に並べるという、このデザインが父のなかでできあがっていきました。
効率だけ考えれば、中規模クラスの釜をおいて、一気に煎りだめし、そこから出荷したほうがなんぼも楽です。
ですが、父はあえて非効率な道をえらびました。
その選択が、この特殊な焙煎釜の配置を生んだというわけです。
ですから、当時、焙煎機メーカーの方に、「ほんまに、これでいいんですか?」と何度聞かれても、わたしは考えを変える気はまったくありませんでした。
父のなかにあった「ほんもののコーヒー」を作ろうという理想を、具体化させた設計だったのですから、いいに決まっていたのです。