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旅の中のコーヒー(パタゴニア編)

自然のなかの美しい景色をみながら、コーヒーを飲みたい。
そう考えたとき、わたしがどうしても行きたい場所がありました。パタゴニアです。

パタゴニアは、アンデス山脈を境に、チリとアルゼンチンの二か国にまたがる場所を指します。南極に近いこの場所でみることができるのは、ペリト・モノレ氷河に代表される、数々の氷河です。自分の足にアイゼンを付け、強い風に体がもっていかれないよう、一歩一歩氷を踏みしめながら、氷河を登っていく。

この地に立って、自分の目の前に広がった景色は、人間には制御できない、圧倒的な大自然の力でした。

かつて、コーヒー農園を訪問して感じたのは、こうした大自然の姿と、それに立ち向かい生きている人たちのたくましさでした。コーヒー生産は昔から残る大自然のなかで行われていたからです。ですから、各国のコーヒー農園に行くのは、たいへん苦労を伴うものでした。

現在になって、コーヒー農園に行くのに、そうした苦労はなくなりました。先人たちの努力もあって、コーヒー農園を訪問する行程は今や、観光地を訪れるように予測可能性が高く、安全なものとなりました。

それと同時に、コーヒー農園に行っても、自然を感じることは少なくなりました。かわりに見られるようになったのは、人の手によって管理された人工の景色です。その景色は、わたしには農園というより、消耗品を製造する工場のように見えます。

昔と比べると、たしかに、安定した味わいをもつ銘柄は手に入りやすくなりました。しかし、その地の自然が生み出した、強い個性をもつ銘柄との出会いは、どんどん少なくなっているように感じます。それは、コーヒー農園における景色の変化も、ひとつの理由のはずです。

アイゼンを付けて、自分の足で氷河を登っていく。目の前に広がるのは、凄まじい強さの風が吹き荒れる荒涼かつ過酷な景色

氷河に登り、冷たく、激しい風に体をもっていかれそうになりながら、コーヒーを口にする。氷河の一部が轟音とともに崩落する。人間には制御できない大自然の力を感じながら、自然が作り出したコーヒーの味わいを求め続けたい。

そう決意を新たにしました。