「日本人には、日本人の好みにあったコーヒーの味がある」。
父、土居博司は、昔からわたしにそう言いつづけていました。
昔から続く日本人の食文化。その食文化に寄りそったコーヒーの味があるというわけです。
そのコーヒーの味とは、どういうものか?
素材のもつ自然な甘みに、父は答えを求めました。
コーヒーは言うまでもありませんが、欧米の食文化から生まれたのみものです。
主流は、イタリアをはじめたヨーロッパの国々にあります。コーヒーの産地の人間と実際に話をすると、彼らの大部分は、ヨーロッパの人々の嗜好にあわせて、コーヒーの味づくりをしていることがわかります。
ただ、ヨーロッパで普及しているコーヒーは、日本のようにドリップ式で抽出したものではありません。エスプレッソ抽出したコーヒーが、ほとんどです。ですから、現地のカフェに入っても、ドリップ式でたてたコーヒーは、メニューにありません。
ですから、産地国では、エスプレッソ抽出を前提にした、強い苦味を表現するコーヒーを、作りだすことが、考えの中心にあったと言えます。
こうしたことから、産地国の方に、「どういった味のコーヒーを求めているのか?」と聞かれて、「自然な甘みを持つ銘柄だ」と答えても、ほとんど理解されませんでした。彼らからすれば、コーヒーは苦味を楽しむものであるし、素材のもつ自然な甘みを大切にするのは、日本の食文化ならではのものだからです。
ただ、父は、従来あった強い苦味のコーヒーの味をあまり好んではいませんでした。そうした強い苦味のコーヒーは、ミルクや砂糖を入れることを、前提に考えられるからです。
一昔前の喫茶店ブームの頃は、コーヒーに砂糖とコーヒーフレッシュを入れて飲むということが、「当たり前」でしたから、父の作るコーヒーは評価されないということも、よくあったようです。
「銘柄の持ち味をいかした先に、自然な甘みを感じるコーヒーの味がある」。
これが、父の考えでした。
しかし、時代は進み、コーヒーの評価基準として、「甘み=SWEETNESS」という言葉をよく聞くようになりました。原産国も昔と異なり、そうしたコーヒーがもつ自然の甘みをいかした味づくりに挑戦しようとする動きが生まれました。
そうしたなか、2018年11月『土居博司セレクション』として、甘みをいかした「ショコラ(=CHOCOLA)」という銘柄をブラジルで発見し、買い付けることにしました。コーヒーならではのビターチョコレートを感じさせる自然な甘みをいかした味づくりに挑戦して作られた銘柄です。
この銘柄を焙煎していると、父がわたしに
「どうだ、おれの言っていたとおりだろ」と言っているような気がします。
「ブラジル ショコラ」は
2018年11月『土居博司セレクションセット』にて、お楽しみただけます。