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コーヒーの焙煎は、奥が深いとほんとうに思います。

コーヒーにおいて“焙煎の鮮度”が新しいということは、欠かすことができません。ですから、土居珈琲では焙煎の鮮度を、たいせつにしています。
コーヒーは焙煎してから長時間経過したとしても、飲めなくなるわけではありませんが、ただ、どうしても、香りや風味は弱まるからです。

では、焙煎釜から出た直後のコーヒーが、もっとも美味しいのか。
実は、そうではありません。

釜から出した直後のコーヒーは、生豆の匂いが強く残っていますし、味にとがりが残っているからです。

ただ、コーヒーは「香り」のことだけ言うと、もっとも強く感じるのは焙煎してから4日ほど経過したときです。ですから、わたしは当初、焙煎の鮮度がより新しい状態の味わいに重点をおいていました。そのほうが、最初に土居珈琲のコーヒーを楽しむ方には、わかりやすいと考えたからです。

ただ当時、そう主張するわたしの話を、父は「おまえは考えが浅い」と言って認めることはありませんでした。

月日がたち、今はこうした考えに少し変化があります。
今、わたしが目指す理想は、飲む方のお手元に届いてから最後の最後まで、より深く楽しんでいただける味づくりです。

焙煎してから時間が経過することで、確かに香りは弱まります。しかし、同時に最初にあった“とがり”を取り去り、味に落ち着きと調和を生み出すようにもなります。
焙煎鮮度が新しいときの味わいだけではなく、時間をかけることで生まれるコーヒーのいわば醸造した味わいも、飲む方に楽しんでもらいたい。

こう考えるようになったのは、もう10年以上も土居珈琲のコーヒーをご愛顧いただくお客さまから、土居珈琲にまつわるお話を数多くお聞きしてからです。お話をお聞きしながら、自分のなかで、純粋にこの方々の期待に応えるコーヒーを作りたいと、強く思うようになりました。

父が、若いころのわたしの主張を認めなかったのは、わたしが、たいせつなことに気づかないまま、わかりやすいことばかりに目をうばわれていることを感じたからでしょう。

考えが変わったなか焙煎していると、当初気づかなかったようなことを、気づくようになるから不思議なものです。

コーヒーの焙煎は、奥が深いとほんとうに思います。