先日、口の悪い友人からこう言われました。
「土居さんのコーヒーは、たしかに美味しい。だけど、同じ焙煎釜を使ったら、同じ味が作れるんじゃないの?」。
もちろん、そんなことはありません。同じ焙煎釜を使えば同じ味ができあがるというほど、単純ではないからです。コーヒーの味は、いろいろな条件が積みかさなって、はじめて完成するものです。
その味をつくる条件の、ひとつに「煙突」があります。
焙煎釜は、焙煎中に生まれる煙を排出するために煙突とつながっています。
創業者である土居博司は、自分が焙煎する工房の場所を決めるに対して、できるだけ高さのある建屋を求めました。その理由は高い煙突を設置したかったからです。
煙突の高さが高いと、それだけ焙煎時に発生する煙がすみやかに外部に排気されていきます。逆に煙突の高さが低かったり、途中で曲がっていたりすると、焙煎中に煙が釜の中にこもり、焙煎釜の火を一定に保つことができません。
また、煙がこもることで、豆に焼きムラが発生したり、煙のにおいがついたコーヒーに仕上がってしまう可能性も出てきます。
こうしたことから、父は自分が求めるコーヒーの味を作り出すために、できるだけ高さのある、まっすぐな「煙突」を求めました。
土居珈琲のお客さまからは、よくその味わいが澄んでいると評価をいただくことがありますが、この土居珈琲の高い「煙突」も、そうしたコーヒーの味を作り出すための条件のひとつです。
そのようなか、先日60何年ぶりとも言われる強い風力をもつ台風が大阪を襲いました。看板は飛び、信号は曲がり、車もこけるほどの強い風でした。
おかげさまでそんな強い風にもかかわらず、土居珈琲の煙突はびくともしませんでした。
草葉の陰から親父がこの「煙突」を、守ってくれたのかもしれません。