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コーヒーの「甘味」の秘密

コーヒーの鑑定は、味の種類別にわけて、行われていきます。
コーヒーの味の種類とは、「苦味」、「酸味」、「香り(濃度と種類)」、「コク」などがあります。

そのなかでわたしたちが、創業当初より大切に考えてきた種類のものがあります。

「甘味=(SWEETNESS)」です。
コーヒーのもつ自然な甘味こそ日本人の食文化に合うと、焙煎士 土居博司は考えたからです。

もちろんコーヒーの甘味とは、砂糖のような直接的なものではありません。
素材のもつ自然な甘味です。お米を何度もかんだときに感じられる、あのほのかな「甘味」です。

問題は、コーヒーの素材の「甘味」を重視しようとすると、焙煎はむずかしくなることです。コーヒーの甘味を引き出す焙煎は、とてもむずかしいのです。

基本的に焙煎は、苦味を作り出す作業です。
コーヒーは焙煎していくなかで、酸味が生まれ、その酸味が甘味に変わり、苦味へと変化していきます。焙煎をどんどん進めれば、この「甘味」はなくなります。

甘味が苦味へと変わるポイントを見極めて仕上げるのが、焙煎の技術です

焙煎を進めていくなか、甘味が残る焙煎度合いをぎりぎり見極め、そこで仕上げることが望ましい。そのぎりぎりのポイントを見極めるのが、焙煎の技術です。

この焙煎度合いを見極めることで、もっとも大切になるのは、当たり前に聞こえるかもしれませんが、その豆をよく「見る」ことです。コーヒーは、収穫年度やロットによって変わります。焙煎の間におこる豆の変化をよく「見る」ことで、その銘柄の甘みを生かすために、どのタイミングで仕上げるべきなのかがわかってきます。

人間は、考える動物ですので、どうしても目の前の豆に対していろいろ考えてしまい、ただ「見る」ということができません。初心者ほど、そうだと思います。

わたしは焙煎しはじめた当初、そうしたことがわかっていませんでした。
当時のわたしが重視したのがデータです。釜の温度や仕上がり時間などのデータを集め、そのデータ通りに焙煎をしていました。目の前にある豆を「見る」ことなく、頭のなかにある情報だけに頼って、焙煎をしていたのです。

「おまえがしていることは焙煎やない。たんに豆、焦がしてるだけや」。
当時のわたしに対して父は、よくそう言っていました。

今、焙煎釜の前に立って、焙煎していると、父が上っつらにとらわれるのではなく、目の前のコーヒーをよく「見て」、そのコーヒー豆と対話することこそが、コーヒー焙煎の本質であることをわたしに伝えようとしていたのだということを、よく思います。