先日お客さまから、ある質問をいただきました。
「インターネットなどで最近、“カップ オブ エクセレンス”という言葉をよく目にするようになりました。土居珈琲さんでは、あまり目にしないのですが、そうした銘柄の取り扱いはないのですか?」
答えからお話すると、取り扱いしています。『土居博司セレクション』でも、今までに“カップ オブ エクセレンス”銘柄をご紹介したことが、何度かあります。
ただ、“カップ オブ エクセレンス”銘柄であることを、全面に押し出すことはしていません。
それには理由があります。その理由とは、過去に、父、土居博司から、こう言われたことがあるからです。
「お前の頭の中は、“がらんどう”か。自分の頭で考えられへんのか?」
“カップ オブ エクセレンス”とは、コーヒーの生豆の品質を競う品評会のことです。通常は、生産国別に開催されます。そこに多くの生豆が出品され、数人の審査員たちによって、その品質が審査されていきます。
コーヒーは、長い歴史の中で味を評価基準として取引されることがありませんでした。何を評価基準としていたのかというと、豆の大きさや不良豆の混入率の低さなどといった、見た目の違いでした。
ですから、審査員によるカッピングの評価を基準として取引されるのは、画期的なことだったと思います。こうしたことから“カップ オブ エクセレンス”が開催された当初に、そこで出品された銘柄を、わたしも買い付けることがありました。
初めて“カップ オブ エクセレンス”銘柄を買い付けたとき、わたしは、ホームページの冒頭に「カップ オブ エクセレンス 入賞銘柄!!」と大体的に書いて、紹介しようとしていました。
それを見た父から言われた言葉が、冒頭にお話した、
「お前の頭の中は、“がらんどう”か。自分の頭で考えられへんのか?」
というものでした。
父曰く、「他人が下した評価を、自分の頭で考えることなく、ただ単純に、お客さまにお伝えしようとするわたしの態度が気に食わない」というわけです。
当時のわたしの頭にあったのは、その方がお客さまにわかりやすいし、もっと言うと、売れやすいだろうということでした。(若かったんですね)
父からすると、そうしたわたしの考え全てが気に食わない。このようなわけで、当時作ったページの内容は、全て、書き直しさせられることになりました。
父が言うには、「お送りした銘柄を、お客さまがお気に入りいただいたとする。改めて、その銘柄のプロフィールを見ていただいた時、それが“カップ オブ エクセレンス”で入賞した銘柄であった、というのであればいい。そうではなく、冒頭からそれをお伝えすれば、お客さまは、どうしても先入観を持って味をみてしまう」
「そもそも、“カップ オブ エクセレンス”銘柄やから買い付けるんやない。買い付けは、自分自身が、本当にお客さまにお送りしたいと考える銘柄を見つけた時にするんや」というわけです。
確かに、審査員の評価を受けた銘柄といっても、人には嗜好の違いがありますので、それが絶対ではありません。
それに銘柄を審査するといっても、目の前にある銘柄を評価するということが、なかなか難しい。人には思惑があるからです。自分がその銘柄を審査する前に、そのカップを先に口にした審査員が、ふと首をかしげたのを見て、自分の評価がブレるということもあります。
そうしたことがあるので、自分自身で考えることなく、現地からの情報をただ伝えるような手抜きをするな。自分の頭で考えて、なぜこの銘柄を、自分たちは今回お客さまに提案したいと考えたのか。それをきちんと伝えろというわけです。
こうしたことから、土居珈琲では、“カップ オブ エクセレンス”に入賞しているものであっても、そのことを全面に出してご紹介するということはしていません。
このことを、ご質問いただいたお客さまにお伝えしながら、昔に思ったある思いがわたしの頭に浮かびました。
親父、言うてることはわかるが、息子に言う言葉、もう少し選べんか・・・。