昔とは違い、多くの産地国で、コーヒー豆の『品評会』が開催されるようになりました。コーヒー農園が収穫した自信の銘柄を出品し、その品質の高さを競い合うというわけです。
出品される銘柄は、たしかに素晴らしいものが多く、上位入賞の銘柄は、より高値で取引されていきます。土居珈琲として、ここに出品された銘柄をご紹介することも多い。ただ、出品される銘柄がすべて満足いくものかというと、そうではありません。わたしがそう考える理由は、三つあります。
一つは、『品評会』において、問われるのは“生豆の品質”であって、どのように焙煎されるかまでは考えられていない点。ですから、仮に上位入賞したものであっても、自分の焙煎と相性が良いとは、かぎりません。
二つめは、人による評価の違いです。こうした『品評会』では、カップにコーヒーの粉を入れて、直接お湯を落とす“ドン漬け”と呼ばれる方法が採用されています。この方法でたてられたコーヒーがテーブルに並べられ、それらを国の異なるコーヒー鑑定士たちが鑑定していきます。注意すべきは、国が異なれば、食文化は異なるという点です。例えば、欧米で評価される料理の味が、日本でも同じように評価されるというわけではありません。コーヒーも同様に、鑑定士がある銘柄に高い得点を付けたとしても、それが絶対というわけではありません。
最後に、『品評会』が競争である以上、他と比べて“わかりやすい違い”をもつ銘柄に、高い得点が付きやすい点です。そうしたわかりやすい違いを、絶対評価とするのは、個人的にあまり好きではありません。
こうしたことから、仮に上位入賞したものであったとしても、自分にとっては絶対ではないという意見をもつようになりました。確かにこうした銘柄は、「『品評会』にて上位入賞」といった言葉にしやすいので、見る方にはわかりやすく、買っていただきやすい銘柄と言えるかもしれません。
いろいろな銘柄が産地国より、土居珈琲の工房に届けられます。
しかし、そうしたことに重点をおいて、自分は銘柄を選んでいるのかと言えば、それは違います。
もっとも大切にしていることは、“だれに向けて作られたものか”ということです。『品評会』というその瞬間に出会うコーヒー鑑定士に、高い得点を付けてもらうことより、長く付き合っている人のために作られた、ということを重視したい。
それは言いかえると、「今年はあの人にもっと喜んでもらえるものを」という意思がこめられて作られた銘柄ということ。
こうした価値観を共有できるコーヒー農園と取引を重ねることで、はじめて“信用”というものが生まれると思うのです。ただ、単に生豆だけを見て判断するのではなく、コーヒー農園と土居珈琲の間に生まれた“信用”という土台の上に作られた、という背景がある銘柄を、お客さまにはお届けしたい。
これが40数年、コーヒーを扱ってきた土居珈琲が行きついた、仕入れに関する考えです。