コーヒーは、世界中の固有の文化に溶け込みながら、さまざまな形で存在しています。
いままでいろいろな国のコーヒーを味わってきました。そのなかで、「戦場の国では、コーヒーはどのように楽しまれているのか」。ふと、そんな疑問を持つようになりました。その疑問の答えを見つけるために、パレスチナに旅することにしました。
パレスチナと言うと、”戦場の国”というぶっそうなイメージがありますが、自分自身その国に足を運ぶと、全く拍子抜けしました。人々は明るく、市場では多くの人々が集い、活気にあふれていました。そこには、ふつうの庶民の生活がありました。
では、街の中に”戦い”のにおいはしないのかというと、そんなことはありません。道のはしには薬莢や催涙弾の破片がいくつも転がっていました。また、街の中はパレスチナ人のいままでの苦しみが表現された絵が、いくつも壁に描かれていました。
今回の旅で記憶に強く残ったのは、イスラエルとパレスチナの国境の境界線での出来事です。イスラエル人とパレスチナ人が出会い、私の目の前で会話していました。ふたりは日常のふつうの会話をかわしていたのですが、その間には何とも言えない緊張感が漂っていました。
市場では多くの人でにぎわっていました。
こうしたパレスチナにも、当然カフェがありました。そこで出されるコーヒーは、わたしたちが日常口にするドリップ式のコーヒーではなく、”トルコ・コーヒー”と呼ばれるコーヒーでした。砂糖を入れて水からコーヒーの粉を煮出した“トルコ・コーヒー”は、イスラム圏の国では主流の飲み方です。砂糖を入れず香辛料のひとつであるカルダモンを入れることも多いのですが、パレスチナでは、砂糖を入れたものが多くだされていました。
コーヒーを飲みながらこの国の人たちとの会話をしたのですが、アメリカ留学という自分の夢が国の情勢で、あきらめざるを得なくなった青年の話も聞きました。その他にも、いたるところで、この国に横たわる問題の深さを感じる出来事を目にしました。そのなか心動かされたのは、こうした厳しい環境のなかでも、たのもしく、そして同時に、明るく生き抜いている人たちの姿でした。
パレスチナで飲んだ”トルコ・コーヒー”の味わいは、わたしに人間の力強さを教えてくれるものでした。