現在、品質の高い銘柄の価格は、世界的に高騰しています。
それにはふたつの理由があります。
品質の高い銘柄は、そもそも収穫量が少ないこと。もうひとつは、アメリカ資本の大手コーヒー会社が、巨大な資本力をもって、より高値をつけて買い付けていくからです。
この状況に、大変苦労しているのが、コーヒーの産地国に駐在する日本の商社の方々です。コーヒーを担当している方は産地国に駐在し、国内にある数多くのコーヒー農園を視察しながら、自分たちが求めるコーヒーを買い付けていきます。彼らが口をそろえて言うのは、「コーヒーの買い付けは、30年ほど前のほうが楽だった」というものです。
彼らが言う30年ほど前の頃というのは、日本がバブル経済下にあった頃をさします。当時、日本の経済力は強い。それに反して、コーヒーの産地国の多くは、経済が未発展でした。
このため、買い付ける側の日本のほうが強い立場にたって、取引をすすめられていました。産地国のコーヒー農園は、非常に弱い立場にありました。
しかし、今やその立場は、逆転しています。コーヒーに品質を求める動きが生まれ、品質の高い銘柄を生み出すコーヒー農園には、アメリカをはじめ、世界中のコーヒー会社から買い付けのオーダーが殺到しているからです。日本の商社の方が農園サイドに、「この銘柄を買いたい」とオーダーしても、すべて、他の国のコーヒー会社に、彼らが希望する価格以上の金額で買い付けられているということが、よく起こっているのです。
「品質の高い銘柄の価格は高い」。これは動かしがたい事実です。世界中と競争しているわけですから、その銘柄を手に入れたければ、他の競争相手より高い価格をつけて買い付ける必要があります。この競争が近年、さらに激しさを増しているのです。
では、コーヒーの取引において、お金を積みさえすれば、すべての銘柄が手に入るのか、というと、そうではありません。人間同士の取引ですから、そこには売る側と買う側の「関係性」が大きく影響します。
たとえば、「昔、自分が若い頃、自分たちのコーヒー農園にさび病が発生した時、コーヒーの樹のメンテンナスに何日もつきあってくれて助けてくれたから」、「アメリカのコーヒー会社が、無理やり安い値段を押し付けてきたこともあった。きみはそうしたことはしなかったから」。「一晩中、お酒につきあって相談にのってくれたから」等々、過去の出来事から出来た「関係性」によって、他の会社より高価格をつけることができなかったにもかかわらず、コーヒー農園のオーナーが自分たちに銘柄をまわしてくれたという経験をもつ商社の方は、とても多い。
状況が変化しても、そこに「人」がいる以上、お金という目に見えるものの他に、目に見えない「関係性」というものが、コーヒーの買い付けには、影響してきます。ただ、こうしたことを期待して「関係性」を作ろうとすることは、あまりいい結果にならないものですが。
品質の高い銘柄を使用するというのは、土居珈琲のこだわりのひとつです。その銘柄がもつ力以上の味わいを焙煎で作り出すことはできないからです。そうした品質の高い銘柄は、高値にはなります。しかし、ただ単にお金を積んで買い付けたということだけではなく、売り手と買い手が「時間」と「信用」を積み重ねて生まれた「関係性」が加味された銘柄を手に入れることが、一番の理想です。