昔、コーヒー豆が、箱のなかで散乱していた状態で、お客さまにお届けするという失敗をおこしたことがあります。なぜ、そのようなことが起きたのか。コーヒー豆を入れたパッケージが、お届けするまでの間に破裂してしまっていたからです。
わたしたちが、個人のお客さまにコーヒーのお届けを開始したのは、2000年に入ってからです。当時は、わたしどもを含め、コーヒー会社のほとんどが喫茶店などの店舗にコーヒーを出荷していました。ご家庭でコーヒーを楽しむ方は、それほど多くなかったのです。
そのような中、わたしたちは、ご家庭でコーヒーを楽しむ方にこそ、自分たちが考える最高のコーヒーを作り、お送りしたいと考えました。ご家庭でコーヒーを楽しむ方に、わたしたち土居珈琲は、どのようなコーヒーをお送りするべきか。このことを考えたとき“焙煎の鮮度”が新しい状態でお届けするということは、欠かすことのできないものでした。
しかし、当時は、ひとつひとつのことを試行錯誤しながら行っていたというのが、本当のところです。コーヒーを入れるパッケージにしても、開始当初は通常の汎用品のものを採用していました。そして、ここで問題が生じました。
コーヒー豆は、焙煎した直後から豆の内部より炭酸ガスを放出します。この炭酸ガスが、コーヒーの「香り」です。このことは当然、理解していました。ただ、コーヒー豆が、お客さまのお手元に輸送するまでのわずかな間に、パッケージを破裂させるほど多くの量の炭酸ガスを放出するとは、想定外だったのです。
「到着したコーヒー豆が、パッケージから出て、箱の中で散乱していた」。こうしたことをお客さまより教えていただき、パッケージを改良していきました。現在の土居珈琲のパッケージは、破裂しないよう炭酸ガスを外部に放出しますが、パッケージ外部の空気は、中に入りにくいという加工をしています。
時々、お客さまより「真空状態にしてコーヒーを送れないのか」というご質問をいただきます。こうした事から、土居珈琲ではパッケージのなかを真空状態にしてコーヒーをお送りすることができないのです。パッケージにつめた直後は、真空状態を保っていても、豆の内部から炭酸ガスが放出されるため、お客さまのお手元に届いたころには、真空状態が維持できなくなるからです。
パッケージの真空状態を維持するためには、焙煎してからコーヒー豆の炭酸ガスが放出しなくなるまで、時間を経過させるという、本末転倒なことをしなければなりません。
土居珈琲のパッケージに貼られているシールは、ポストイットのようにはがしやすく、つきやすいものを採用しています。
この改良したパッケージは、気密性が損なわれるというデメリットが考えられます。ですから、お客さまにはコーヒーが到着してから、密閉性の高い保存缶などにうつしかえていただくことを推奨しています。
こうしたことをお伝えした時、「保存缶に移し替えるとき、中のコーヒー豆が、どの銘柄なのかが分かるように、パッケージについている銘柄シールを保存缶に張り替えたい。だから、銘柄シールは張り替えのしやすいものにしてほしい。」という要望をいただきました。
その「声」から、パッケージにつける銘柄シールは、ポストイットのようにめくりやすく、また、張り替えしやすいものを探して採用しました。こうしたことは、言われてはじめて気づくものです。
パッケージひとつ見ているだけで、いろいろなことをお客さまより教わりながら、改良を積み重ねていった記憶が、思い返されます。土居珈琲は、お客さまに育てていただきながら、今があるということを痛感します。