夏と言ったらアイスコーヒーです。
しかし、アイスコーヒーを「美味しい」と感じている方は、どれくらいいるでしょうか。口にしたとき、あのシロップを大量に加えた甘い味わいに顔をしかめ、口のなかにいつまでも残る不快な苦味をもって、「アイスコーヒーは不味い飲み物だ」と、とらえている方のほうが多いのではないでしょうか。
しかし、かつて喫茶店で出されていたアイスコーヒーの中には、美味しいと感じさせてくれるものもあったのです。その理由は一昔前までは喫茶店の店主が、自分たちでアイスコーヒーをたてていたことにあります。
喫茶店にコーヒーを配達しに行くとき、店主が布フィルターを使ってアイスコーヒー用のコーヒーを抽出している風景は、わたしにとっての夏の風物詩でした。こうして作られたアイスコーヒーは、その店の味というものを有していました。
しかし、いまやほとんどの喫茶店で出されるアイスコーヒーは、出来合いのパックのものです。ですから、どこの店でアイスコーヒーを飲んでも、みな同じ味です。
アイスコーヒーの作り方はそれほど難しいものではありません。グラスに氷をたくさん入れ、熱く濃厚なコーヒーを注ぎ、一杯ずつ急冷して作るのが基本です。
このアイスコーヒー、実は世界的に広く普及しているものではありません。コーヒーをもっとも多く消費する国といえばアメリカですが、アメリカでもコーヒーを冷たくして飲むメニューを目にすることは、まずありません。このアイスコーヒーという楽しみ方は、日本独自のものです。
日本の高温多湿の夏が、このアイスコーヒーという独自の文化を生み出したのでしょう。品質の高い銘柄を使って、一杯一杯丁寧に作ったアイスコーヒーの素晴らしい味は、日本でしか楽しめない希少なものでもあるのです。