コーヒーは世界中で楽しまれ、その地に住む人々の生活に浸透しています。そして、それぞれの国で異なるコーヒーが存在する。土居珈琲 土居陽介が、旅の中で体験した「コーヒー」旅行記をお届けします。
カリブ海に浮かぶラテンアメリカの国キューバは、「革命の国」として知られています。この「革命の国のコーヒー」の味わいを知りたい。そう考え、この国を訪れました。
キューバは、社会主義に近い国であり、街の雰囲気は独特です。街のいたるところにチェ・ゲバラの落書きが書かれています。そのような街の風景を一見すると、怖い国とイメージする方もいるかもしれません。しかし、一日街を散策すれば、そんなイメージは、すぐに払拭されます。
街のいたるところで、人たちはサルサを踊り、ギターを弾いて歌っている。どちらかといえば、のんびりとしたお国柄です。
ただ、アメリカからの物資の輸入が制限されているため、日本では当たり前にあるものが、キューバにはありません。例えばわたしたちが日常目にしているマクドナルドやスターバックスといったアメリカ資本のファーストフード店は、まったく目にすることはありません。
この国では昔ながらの町並みが、姿を変えずのこっているのです。昔ながらのものといえば、町を走るクラシックカーもその一つ。70年代のアメリカ車やソ連製の車が、今も現役でバリバリ走っています。その風景は、まるで1970年台にタイムスリップしたかのようです。
そして、キューバは、あまり知られてはいませんが、コーヒーの産地国でもあります。ただ、キューバで産出されるコーヒーの品質は、それほど高いものではありません。昔からキューバ産のコーヒーは、ジャマイカ産の「ブルーマウンテン」銘柄の代用品として捉えられていました。この国のコーヒーは、「ブルーマウンテン」と味が似ていて、やわらかい酸味を楽しめるからです。
このキューバ産のコーヒーをいろいろな場所で飲んでみました。出てくるコーヒーの温度は、いつもぬる目。そして、その味わいは奥行きがない。どこかなつかしさを感じる味わいは、70年代に日本の喫茶店でだされていたコーヒーの味とそっくりでした。そう、町並みだけではなく、コーヒーも「昔のコーヒー」だったのです。
いま現在、わたしが求めている品質の高さを土台としたコーヒーの味とは、真逆のものでした。革命の国のコーヒーの味わいは、とても“ゆるい”ものでした。
しかし、この“ゆるさ”こそ、中南米のお国柄。美しい海と穏やかな気候をもつこの国では、時間はゆっくり経過していくよう。
この雰囲気のなか、この “ゆるい”味わいのコーヒーを口にしていると、だんだんこの味わいが魅力的に感じてくるのですから、不思議なものです。
いろいろな国で、コーヒーは異なる魅力をみせてくれる。キューバのコーヒーは、あらためてそのことをわたしに教えてくれました。