現在のコーヒー市場から、「ブルーマウンテン」がなくなっています。コーヒーを飲む方なら、一度は耳にしたことがある銘柄。ジャマイカ共和国にあるブルーマウンテン山脈の標高1200メートル近くの地域で作り出された銘柄のことを指します。「ブルーマウンテン」と言っても、品質はピンきりです。標高が高い場所で栽培されたもののほうが、品質が高くなります。
その味の特徴は、香りが上質なこと。甘味が強く、酸味とのバランスが繊細なことがあげられます。輸出の大半は日本向け。この甘味が強い味わいが、日本人の嗜好にあっているからでしょう。ただ、この銘柄は非常に高額。その理由は、ジャマイカの国土が小さいため、収穫量が極めて少量のためです。
では、なぜ、現在、この「ブルーマウンテン」が、市場から消えているのか。
生産量が、激減しているからです。この原因は、2012年10月にジャマイカを、ハリケーン「サンディ」が襲ったことによります。このとき、現地のコーヒーの木の多くが倒れる被害を受けました。さらに2013年、強い伝染力をもつ「さび病」が大流行。被害に追い討ちをかけました。コーヒーにおいて天候による被害によって、生産量が減少することは、よくあるのですが、今回ほど深刻な事態は、私自身はじめての経験です。
現地では幼木を植えるなどの「再生」を進めていますが、この木からコーヒーの実が収穫できるまで3?4年はかかるとされています。先日ジャマイカのコーヒー農園のオーナー、何人かと話をしました。普段は陽気な彼らですが、その口調は、一様に暗いものでした。
しかし、彼らは最後にこうも言っていました。
「とにかく、ここでがんばるしかない」
それは、作り手の人間の「覚悟」を感じさせる一言でした。この困難を乗り越える意思をもった人間が作り出す次回作の「ブルーマウンテン」の味わいは、わたしたちの創造をはるかに超える銘柄になるかもしれません。