見たことがあるようなないような、ないような。
上部の道具はブラシのように見えますが、ご家庭で使用するブラシとは大きさが異なります。これは焙煎釜のえんとつを掃除する道具です。へらのように見える道具もありますが、大きさは大小さまざま。
特別な呼び名のないこれらの道具は、焙煎士が焙煎釜をメンテンナスするときに使用するものです。コーヒーの焙煎度合いは、数秒で変化していきます。ですから、油断していると、あっという間にねらった焙煎度合いからはずれてしまいます。自分が頭のなかで想定している焙煎度合いに仕上げるには、それ相応の「技術」と「経験」が必要となってくるのです。
では、「技術」と「経験」さえあれば、自分がねらった焙煎度合いに仕上げることができるのかというと、それも違います。使用する焙煎釜が、完璧な状態でなければ、そうはなりません。
焙煎によって発生した薄皮や油脂分は、焙煎釜の内部はもちろん、煙が排気するえんとつ部分など、いたるところに付着していきます。この付着した「汚れ」をきれいに取り除かなければ、コーヒーの焙煎はうまくきません。釜の内部に「汚れ」がたまると、煙の排気効率が悪くなり、焙煎時における火のエネルギーが少なくなるからです。焙煎釜の性能は、その焙煎釜が新品の状態において、完全な性能が発揮するように設計されています。
ただ、このメンテナンスと言うのは、カンタンなことではありません。焙煎釜のいろいろな部品に付着した「汚れ」を取り除くためには、メンテナンスの道具を、ひとつひとつ取り揃えなくてはいけません。自分の頭で、「あれがいいか、こっちのほうがいいのではないか」と試行錯誤し、時には自作することもあります。これらは決してパッケージされ、用意されているわけではないのです。
繊細さと根気が必要な焙煎の現場には、「技術」と「経験」に「工夫」を重ねた名も無き優秀な道具がそろっています。