味作りを考えられるようになった現在。
「この銘柄のもつ持ち味を、いかに引き出すか?」
品質の高い銘柄を目の前にしたとき、こうした観点からコーヒーの味づくりを
考えていきます。
料理の世界では、その素材の持ち味をいかに引き出すかを考えることは
当たり前のことです。
しかし、一昔前までは、コーヒーは、この当たり前のところから
味づくりが考えられていたわけではありませんでした。
「どうやって、この銘柄の悪い味を隠すか?」
そこから味作りは考えられていました。
たとえば、 「コーヒーの品質が高くなる条件とは?」
という質問の答えのひとつに
「樹上で完熟したコーヒーの実が収穫されたもの」
ということがあります。
コーヒーの樹には、コーヒーの実がなります。
最初は緑色であったものが、徐々に赤みを増して、完熟すれば
トマトのように真っ赤に実ります。
このコーヒーの実のなかには、生豆がふたつ向き合った形ではいっています。
完熟したコーヒーの実であれば、おいしさの成分が生豆のなかに、
たくさん含まれることになります。
美味しさの成分を数多く含む銘柄であれば、焙煎する人間の立場から
考えれば、どうすれば、この銘柄が持つ美味しさの成分を引き出すことができるのか、
ということを考えることになります。
しかし、かつてはコーヒーの生豆の多くは完熟する前の、
まだ実が青い状態で収穫されたものがほとんどでした。
実を完熟させることが、コーヒーの味に良いということが、
まだわかっていなかったからです。
完熟したコーヒーの実から収穫された生豆であるのか、
そうでないのかは、生豆を見ただけではわかりません。
ただ、言えることは青い実の状態で収穫されたコーヒー豆は、
どのように焙煎してもやはり味が引き立たない。
もっとも引き立たない味わいは、「酸味」です。
そうした生豆からは、果実を感じさせるような上質な「酸味」ではなく
エグみを感じる不快な「酸味」しか作り出せません。
そのような生豆を焙煎するのであれば、
「どのように悪い味を隠すか?」ということから味づくりを考える必要がありました。
近代になって銘柄の品質の向上は、
「どのように悪い味を隠すか?」ということではなく
「どうやって、その銘柄の持ち味を引き出すか?」という
コーヒーの味作りの考え方を、大きく変えました。
「どうやって、その銘柄の持ち味を引き出すか」
この料理における原則といえる考え方から味作りを考えられるようになった現在は、
焙煎する人間にとって、喜ばしい環境になったと強く感じます。