コーヒーをお客さまが楽しむ時間、そして共に過ごす毎日。
そこには、お客さまそれぞれのエピソードがあります。
初めて召し上がっていただいたきっかけや、ご感想をお聞きしたくて、
土居珈琲 土居陽介がお客さまをお訪ねしました。
今回も、素敵なお客さまに土居珈琲のコーヒーをどのように楽しまれているかのお話をお聞きしてまいりました。新潟で医師のお仕事に就かれている松本 尚也さま。土居珈琲を10年以上ご愛顧いただいております。
土居珈琲だから私は飲むのです。これは、この先も変わりません。
松本さまには、もう10年以上当社のコーヒーをご愛顧いただいております。松本さまから見て、当社のどの部分に長年、お付き合いをいただける魅力があるとお考えでしょうか。
毎月、新しいコーヒーが届くと、梱包された箱の外までほのかに良い香りがするのです。宅急便の人も「ほぉ…」という顔をして持ってくる。うれしい瞬間です。
芸術品のような美しい豆がきれいに梱包されています。開封したときの香りは、いつまでも浸っていたいと思わせます。古代ローマの貴族でもこんな贅沢は味わえなかったでしょう。毎月感動しています。
その繰り返しで、早や10年以上経ちました。長いお付き合いになりましたね、本当に…。
若い時からコーヒーをご愛飲されていたのでしょうか。
私には、コーヒーを飲む習慣はありませんでした。勤務医として救命救急の最前線で働きながら、ひたすら激務をこなす毎日でしたから。
仕事一筋だったので、喫茶店に入るような経験もなく、嗜好品の類いなどは軽蔑すらしていた頃です。コーヒーは、会合の席で出されていた「苦く酸っぱい」飲み物で、私にとっては、価値がありませんでした。その当時は、良質のコーヒーにはなかなか出会えなかったと思います。
そんな松本さまが当社のコーヒーをご注文いただいたきっかけは、どういったことだったのでしょうか。
コーヒーに興味のなかった自分がどうしてコーヒーの定期購入を頼むことになったのか、考えてみれば不思議です。
インターネットで土居珈琲さんのことを拝見したのがきっかけです。土居珈琲の広告の文章に惹かれたとしか言いようがありません。とことん突き詰めた仕事を誠実に行っている人だけが語れる、力のある言葉だったと思います。
私はコーヒーのことは何も分かりませんでしたが、この人たちの仕事は「本物」だと直感で感じました。「本物」の職人の仕事に触れることで自分自身を高めたい!それが定期購入をお願いした理由です。
送っていただいたコーヒーの箱を開けたときの香りの良さには、心底驚きました。口に含んで舌の上で転がすとトロリと甘い味わいの良さにも驚くばかりで、この世界には自分が知らない「良きもの」がたくさんあるのだ、と大いに感動した次第です。
そうだったんですか…
私はコーヒーの善し悪しを判定できるような人間ではありませんし、美しい言葉でその味を表現する能力もありません。だから、「おいしい!」という以外の言葉がみつからなくて残念です。ただ、確かなことは、土居さんのコーヒーは「いつも絶対においしい」ということです。
私は土居珈琲さん以外でコーヒーを頼むことがありませんので、他の店と比べてどうかという評価はできません。でも、その必要はないことです。土居さんのコーヒーだから私は飲むのです。これは、この先も変わりません。
「若いときに苦労して学んだことは絶対に忘れません。」
わたしどもの仕事をしていて、今、難しく感じていることのひとつに若い世代への技術継承があります。お医者さまの世界でも、これは同じなのでしょうか?
困難な状況は医療の現場でも同じです。学ぶための環境は、昔よりはるかに整えられています。だから、向上心のある人は喜んで努力をして自分を高めてゆくでしょう。一方、怠惰に流される人には、努力する機会すら与えられない。
今後は、各人の「努力格差」が大きく広がる時代になると思います。昔は、頑固親父のような上司や怖い先輩がたくさんいて、かなり強引な指導もあったとは思いますが、そのおかげで一人前に鍛え上げられた若者も少なくないと思っています。私自身がそうでしたから。
昔の「野蛮な」時代に戻せなどと言うつもりはありませんが、私にとってはかけがえのない経験であったと、今なら分かります。若い頃に苦労して学んだことは絶対に忘れません。
わたしどものコーヒーの仕事においては、なかなか言葉では説明ができない部分が多いのですが、お医者さまはどうなのでしょうか?
これは仕事の技術というべきではないかもしれませんが、良き医療者に必須の条件、人を安心させたり、元気づけたり、寄り添ったり、という「癒やしの力」について述べます。
医療者にもさまざまな人がいます。やたら頭の良い人や話のうまい人、要領だけは良い人・・(笑)。そんな中で、本当に優しい気持ちで人を癒やす力をもった人はそれほど多いわけではありません。私はそのような存在になりたいといつも願っていますが…。
人を癒やす力というのは、ある程度まではスキルとして学ぶことで対応できるでしょう。しかし、本質的にはその人自身の心の力であり、才能そのものです。教えられてできるということではありません。
「作ることはできない、ただ見いだすのみ」ダイヤモンドのような存在です。しかし、大勢の中には、教えられたわけでもないのにごく自然に人を癒やし、笑顔にできるような若者がいます。上に立つ人に求められるのは、そのようなダイヤの原石を見逃さないことでしょう。
「土居さんのコーヒーを、患者さんにお出しすることもあるんですよ。」
以前、松本さまから担当する患者さまに当社のコーヒーを出すと、とてもお喜びいただけるというメールをいただきました。とてもうれしく思ったことを覚えています。
土居さんのコーヒーを、患者さんにお出しすることは、よくあるんですよ。
長く闘病なさっている患者さんが大勢いらっしゃいます。お元気になっていただきたい。そう思いながら治療を行っていますが、どうにも難しい病状になってしまう人も。
そんなとき、「○○さんはコーヒーが好きだ」と耳にすると、「ああ、それなら!」とコーヒーをいれて病室に伺うのです。短い時間でも一緒にコーヒーを飲んで、病気と関係のない話題で雑談ができると、とてもうれしいです。
「それは本当に涙が出るくらいありがたい。」
お医者さまのお仕事をしていて、いちばんうれしい瞬間というのはどういうときなのでしょうか。
毎日、たくさんの患者さんがおいでになります。その中で、「他の医者ではなく、松本に診察してもらいたい」とおっしゃって、わざわざお越しになる方がおられます。こんなにうれしいお言葉はありません。本当に涙が出るくらいありがたいことです。
そして、「治療のことはすっかり任せるから、お前の良いと思うようにやってくれ」とおっしゃる患者さんもおられます。ありがたいお言葉です。責任を感じて内心たいそう緊張しますが、全力で取り組んでいます。
私どもの仕事でも本当に共通することです。
私も、コーヒーに関しては土居さんにすっかりお任せしているつもりです。土居さんが、「素晴らしい豆だ」とお考えになるものを、今後ともご紹介していただければと思います。
「良いものを分かち合う喜び」
いまのご年齢になって、仕事をしている目標というものはお持ちなのでしょうか。
先のことは特に考えておりません。日々一話完結の物語のように大切に生きています。
いつの間にか50歳になり、人生において必要なものはすべて手に入れました。この先は自分のためにむさぼることは終わりにして、他の人たちと分かち合う喜びについて学びたいと思っています。
土居さんのコーヒーを飲んで、初めてコーヒーのおいしさを知ったスタッフがいます。「おいしい」という感覚を共有することで、心がつながるようなうれしさを感じます。
仕事をしていく中で非常に背筋が伸びるようなお話しを今回はお聞かせいただきました。
ぜひ、またお話できる機会を楽しみにしています。